不思議な牛

｢もーーぉ」
うちの花子は不思議な牛なんだよ。
生まれて間もねぇ頃には、腹に大きな黒い塊があるだけだったんだがよ、それが成長すると分かれてきて、だんだんと複雑な模様になったのよ。

｢もーーぉ」
それぐらいの事は、ざらにあるだろうって？
いや、ここからが不思議なのさ。
腹の模様は、なんとなく見覚えのある形になってきた。何だろう何だろうと思って観察していると、ある日、見間違えようのねぇ模様になった。
わしらの住む小さな島国を中心に、左右に分かれたその形は、紛れもなく世界地図そのものだったのよ。
そんな牛なら、ぜひ見てみたいって？
あはははは、さっきからここに居る牛がその花子だよ。
えっ、まるで地図に見えない？
いやぁ、ほんの数日前までは、ちゃんとした世界地図の形をしていたんだがねぇ。
昨日、牛舎に行ったらこの有様さ。

｢もーーぉ」
なぜか、丸い穴ぼこだらけの地図になってしまったよ──。