暑い試合

相撲の勝負は短い。ほとんどカタがつくのは一瞬だ。
だがこの一戦が始まってからというもの、すでに5分は経過している。
力士たちが土俵の真ん中で、まわしを掴み合ったまま膠着してしまった。

実況によれば、本場所の優勝を賭けた一戦らしいが、
まあ、おれには関係ない。おれにおれの、負けられない戦いがある。

「『のこった、のこった、のこった…』」

…のこったのはあと、ふたり。
相手は、これまでこの競技を席巻してきた男。
どちらも顔を真っ赤にして、無言のまま耐えている。

しばらくして、勝負に進展があった。

長期戦で疲弊したのか、横綱が土俵際へ追い込まれ、苦しい顔になる。
最後の維持を見せるも、先に外へ押し出されたのは横綱だった。

下克上だ。

座布団が、タオルが、宙を舞う。

文字どおり暑い試合だった。
その証拠に、全身から心地よい汗が流れている。

さあ、次は水風呂に浸かって、冷たい試合。