ミノタウロスの憂鬱

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「ここは通った場所だわ!」
真っ暗な地下迷宮を手探りで歩く。
数日前、私はこのラビリンスに棲む怪物の生贄として投げ込まれた。二度と出られない迷路と聞いてはいたが、一縷の望みに賭けて出口を探していたのだ。

どしーん、どしーん、と重い足音が近付く。
松明に照らされ、巨大なツノを持つ影が壁面に映し出された。
逃げないと!
と、慌てたのが拙かった。
「きゃあ!」
「大丈夫かい?」
足を取られて迷宮の底に落ちかけたが、牛頭の怪物が私の手を掴んで引き上げてくれた。
「ひ、人を喰うんじゃ?」
「あはは、ぼく牛だよ。草しか食べないよ」

牛男の案内で迷宮の外に出ると、小舟に乗せられた。
「ここから海に出れば見つからない」
私は波に揺られながらある疑問を口にした。
「何故あなたは逃げないのですか?」
「ぼくはね、自分を殺してくれる人間が現れるのをずっと待っているのさ」
牛頭の怪物は寂しそうに笑った──。
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公開:21/01/10 00:14
更新:21/01/10 03:20
牛まつり

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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