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「高価なものは誰にでも作れる。万物の機微を見定めて真の価値を生み出すのは、心得と才能を持つ一握りの者だけだ。手先の器用な職人は市中に溢れているが、真の芸術家は見当たらない」

画商だった祖父は、中学生になったばかりの僕の絵を見てそんな事を言った。
「大げさですって。義秀、本気にするんじゃないぞ」
父が冗談交じりに嗜めるのを、祖父は鼻で笑い飛ばした。

「いいか義秀、意識を澄ますんだ。目ではなく魂の奥で、無色の襞で光を捉えろ」

あと半年で四十になる。いまだ結婚もせず、アルバイトをしながら絵を書いてその日暮らし。いくつか賞を受賞したりもしたが、それだけで食っていけるわけがない。姉弟たちは結婚して、子供も作って親孝行を果たした。僕は長男だが、両親たちは既に多くを諦めている。

「じいちゃん、勘違いだったかも」
ボソリと呟き目を閉じる。

見たことのない絵が、暗闇の中にくっきりと浮かび上がった。
その他
公開:21/01/09 23:00
更新:21/01/09 22:45

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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