雪化蝶

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深々と降り続く雪の中に大地まで落ちず、空中を漂っているのが「雪化蝶」だ。
その名前のとおり、雪が化けた蝶で「幻の妖精」とも呼ばれている。その正体はよく知られていない。
雪化蝶の羽の模様は、さまざまな雪の結晶の形をしていて、その美しさは言葉に表せないぐらい神秘的で、硝子のように透き通っている。
よく辺り一面の銀世界を「雪化粧」というけれど、雪化蝶の羽の表面の雪粉が降り注ぎ、銀色に輝いて見えているからだ。
雪化蝶は、人間にとっては過酷といえる極限の環境で生きていて、澄みきった空気と張りつめた冷気、そして絶え間ない吹雪の中でひらひらと舞っている。
実は、雪山で遭難したとき、突如まばゆい光の粒子が上空で集まって不死鳥となり、その翼で俺の全身を包み込んだ。そのまま気を失ったあと、埋もれた雪の中で奇跡的に発見された。
雪化蝶が命を救ってくれたんだ。その証拠に、ここにある凍傷の跡が蝶の形になっている。
ファンタジー
公開:21/01/08 20:02
妖精 結晶 銀世界 雪化粧 吹雪 雪山 凍傷

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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