リブとロースと夜の牛

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 大概、みんなリブとロースの間を行ったり来たりさ。それはとても狭い路地で、長屋というかさ、風呂なんて無い。真ん中にチュロスみたいな共有広場があってさ、井戸、そう、垂直な穴の底に水が溜まってる、それさ。でもアバラだからって、馬鹿にしたもんでもないさ。アバラと言ったって、なにしろそれは、牛のアバラなんだからさ。緩やかな峠を過ぎるとかすかに斜降する急峻な崖でさ。斜めでよかったってみんな感謝してる。あんただってそのリブとロースの間を滑落して無事だったんだから感謝したほうがいいよ。肩バラ辺りじゃ牛は大事にされてるらしい。ま、この辺じゃ食うか食われるかだけどさ。油断してるとサーロインにフィレにされちまうって、専らの噂さ。
 飲むかい? 山羊乳だよ。
 発つつもりかい? よしなよ。いくら急いだってこの霜じゃ、しばらくリブは上れない。それにさ。もう真っ黒な牛が来てるよ。ほら。後ろに、角を振り立てて。ほら。
ファンタジー
公開:21/01/08 16:55
牛祭り

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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