なで牛

20
17

初詣に来たが、夕方のせいか屋台も終いで人もまばらだ。まだ人の熱が残る境内に梅紋の提灯が風に揺れている。
「冷たっ」
迫田は注いだ水に思わず声が出る。
「お寒いですね」
男の気配にぎくりとした。
「さ、寒いですね」
聞けば、賽銭泥棒の被害が多発し町内でパトロールを強化していると言う。迫田は怪しい人間だと思われていたと気づいて頭をかいた。
「折角のお詣りに、御神酒いかがですか。紙コップで申し訳ないですね」
注がれた御神酒は花の香りがした。少ししか飲んでいないのにふらつき、なで牛にもたれ掛かる。
「失礼、あ、牛か」
「あの不届き者を捕まえろ」
ぎょっとして、なで牛をまじまじと見つめるとじれったそうに首を振る。
「行け!」
背中をどんと突かれ足が縺れたが何とか走りだし、賽銭箱を抱える不審者に体当たりした。
「一件落着」
牛の声に混じって愉快そうな笑い声が聞こえた。
ファンタジー
公開:21/01/08 15:59
更新:21/01/08 16:09
牛まつり 便乗失礼します

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容