うしらせいたします。

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「新年の訪れを、うしらせいたします」
朝起きると枕元に牛がいた。代わりにカレンダーと時計がない。
「あ、スマホもねえ」
「私がうしらせいたします。ちなみに、ただいま巳の刻でございます」
「丑の刻じゃねえんだ」
「朝でございますから」
牛は丁寧に頭を下げた。

俺は牛にイクゾーと名前をつけた。
「イクゾー、テレビつけて」
「ございません。私が再現にてうしらせいたします」
イクゾーはおもむろに座布団を敷き、恭しく挙手すると大喜利を始める。ニュースを読み上げ、歌だって器用に歌った。
東京に越してきて、ずっとどこか空っぽだった。テレビもスマホもあって車もビュンビュン走っていたけど、なんとなく、いろんなものをうしなった気がしていたのに。

一年はあっというまで、次の大晦日はすぐにやってきた。
「丑の刻には、またうしらせに参りますよ」
イクゾーのあたたかい声に目を閉じると、鐘がまたひとつ静かに鳴った。
その他
公開:21/01/09 10:29
更新:21/01/09 21:56
牛まつり

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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