修業レポート

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青年は人生の意味、世界の真理を知りたいと渇望し、会社を辞めて高名な師匠のもとで修業することに人生を賭けた。住み込みを許されて三年間、炊事掃除洗濯その他雑用を甲斐甲斐しくこなし、ようやく師匠の部屋に呼ばれた。師は莞爾と笑って一枚の紙を差し出した。「い」と書いてある。師は「質問」という。これを解かなくてはならない。
青年は部屋に戻って紙を見つめた。「い」とは何の意味だろう。意なのか異なのか、生きる命の「い」か、イロハのイか。一晩中考えても答えは見えない。明け方に障子の向こうに庭を掃く人の気配がする。果たして庭に掃除をしている師がいた。青年は挨拶も忘れて「質問」の答えが見つかりませんと口走った。師は莞爾として無言で掃きつづける。
それから青年は師の部屋に呼ばれた。
師は静かに「答えは無い。無いものを見つけることはできない」
そう言うとまた一枚の質問を差し出した。紙には何も書かれていなかった。
その他
公開:21/01/09 08:39

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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