木の香り屋さん

友人の家に行くと5cmほどの小さな畳の置物があった。
友人は、これを置いていると部屋中木のいい香りになると教えてくれた。それを売っている店を教えてもらい、すぐにそこに向かった。
「木の香り屋、ここだ…。」
中に入るとたくさんの畳の置物が透明なケースに入っていた。香りが混ざるといけないのだろう。ひとつひとつ開けて嗅いだ。
私は悩んだ末クスノキの香りに決めた。
少し高かったが抵抗なく払った。
「霧吹きで水をやると、湿った木の香りになります。その場合は時々天日干ししてカビないようにしてください。」
「わかりました。」
早速家に帰って部屋に置くと、部屋中いい香りになった。
その日から死ぬまで一生懸命世話をした。一緒に棺桶にも入れてもらった。そしていま木の畳と一緒に幽霊になった。
あなたが歩いていて急にクスノキのいい香りがしたら、私達とすれちがったのかもしれませんね。