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その小さな金の太陽は、海岸線の淵にそっと置かれる。
「これは、どこの海を描いてるの?」
「南イタリア、ポンペイの海だよ。ぼくの生まれ故郷なんだ。」
しかしながら、彼の見つめる先に海はない。あるのは機械的に
区分けされた集合住宅のみである。
彼はその一角にある、ベンチと公衆トイレしかない公園で、ひたすら
絵を描いている。

「それは、猫?」
「ああ、そうだよ。まあ、ぼくも図鑑で見ただけなんだけどさ。」
ラフスケッチの粗い線の上から、柔らかな毛並みが細かく描かれてゆく。
「そうだ、君の故郷のことも聞かせてくれよ。今度描いてあげるから
 さ。」
そういうと彼は、画板からから絵を外し、新しい紙を留めた。
「どうしてお兄さんは絵を描き続けているの?」
しばらくの沈黙のあと彼は、
「…あの美しい景色を遺したいんだ。こうして絵を描けばいつまでも
 残るだろ?」
そういうと彼はまた、筆に絵の具をつけた。
SF
公開:21/01/08 02:54
更新:21/01/08 03:22

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