カラン

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ドアのカウベルを優しく鳴らして、お気に入りのバーに入った。わたしの一杯目は、いつもジントニック。

――カラン。
一杯目を空にして、溜息ひとつ。空だけに、氷がカラン。
「ふっ」
少し心がほどける。
カランカラン。
これは氷じゃなくて、カウベルのカラン。
カランカランカラン。
誰よ、ドアで遊んでんの。とふと横を見ると、一頭のホルスタインがわたしの真横に佇んで、首のベルを揺らしていた。
「あちらのお客様からです」
バーテンダーが示す方に視線を移すと、ボーイフレンドの一人がウインクした。
「子供はミルクでも飲んでろ、ってことかしら」
「いえ、雄です」
それなら。わたしは黒のマスカラでホルスタインの白い毛をぜんぶ塗り潰した。それを見た彼は、肩をすくめてバーを出ていく。
べつに白黒つけたいわけじゃないけど。
「どうしてほしかったのかしらね?」
わたしは牛に向かって意地悪そうに微笑んで。
「ワカラン」
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公開:21/01/07 21:33
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