僕の記憶

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病室の母の姿は心許なかった。
定期的に酸素マスクの機械音のする部屋の窓からは、真っ青な秋の空が見える。
僕の記憶には、母との楽しい時間がぎっしりと詰まっていた。
その記憶の上を遡り、一枚、また一枚と自分の表皮を脱ぎ捨て、記憶の中の僕はみるみる若返っていく。幼い日の自分。母とお絵描きをしていた小さな僕。愛されていた日々。

「心残りは…」
母が呟き、僕は振り返る。
「あの子を産んであげられなかった事…」
あの子?
父が母の手を握る。
「大丈夫。あの子はお前の中で今も生きている」
「そう。そうね。ずっとあの子と一緒に生きてきたつもりだわ」
母の目が僕を見る。いや、僕の向こうの空を見上げていた。
ああ、そうだ。僕は産まれてこれなかったんだ。
母の創造した日々を生きてきた僕が最後に記憶したのは、母の目から見えた真っ青な秋の空だった。
ファンタジー
公開:20/10/29 13:14

森川 雨

ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。

よろしくお願いします。

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