極小病棟は摩天楼の幻を視る

極小病棟では人は分割されて入院する。
頭、右腕、左腕、胴体、右脚、左脚、と部位毎に別の病棟の病室に入院するのだ。

脳腫瘍で心臓病で両手両脚骨折の人は、六体ばらばらに全部位が入院する。
それぞれのベッド空間は小さくて済む。

しかし交通整理はかなり大変だ。それぞれが勝手にくっつく相手を求めるからだ。
人はばらばらになると身勝手になるらしい。元通りの身体に戻りたがらない。

むくつけき男の頭が豊満な胸の女の胴体を求め、胴体が嫌がらない場合があるから厄介だ。

左右反対ならまだいい。腕と脚とが反対に付くことを夢みる場合もある。

脳腫瘍の頭には心臓を、弁膜症の心臓には小脳を。
されば、血のように赤い薔薇を使ってなんの不思議があろうか。

血管が戯れ神経が絡まる、病棟を繋ぐ螺旋階段は、相手を求める頭たちで一杯だ。
美男美女も醜男醜女も飢えにまみれている。
病理だけが行方不明だというのに。