愛の熱量

1
3

「あなた、ゆで玉子をお願い。私はお湯を沸かすから」
「ああ」
妻は鈍く輝くケトルを両手で包むと瞳を輝かせて顔を寄せる。
「ほら!熱くなって!うんいい調子ね」
やがてコトコトと音を立てお湯が沸く。夫は両の手に乗せた卵に声をかけた。
「熱くなれ!じっくり中までだぞ!……おい半熟だったか?」
「お忘れ?私は固ゆで派よ」
「そうだったな」
長く温暖化が続く地球の未来を憂う人類の願いが通じたのか、いつの頃からか新しい力を持つ人間が誕生するようになっていた。
彼らはハートの熱さを周囲に反映させる能力を活用することでエネルギー問題のいくらかを解決し、石油資源の消費による環境破壊には漸くブレーキが掛かる事となった。
「さ、どうぞ」
芳醇な香りを纏う湯気の立つコーヒーを、熱々だな、と夫が受けとる。
「あなたへの愛よ」
ふふ、と笑う妻に優しく微笑みながら頂きますと返した夫は、すっかり冷めたコーヒーを啜った。
その他
公開:20/10/29 16:28

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容