成長と大理石

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 ゆらり、と私の視界の中にそれは入ってきた。
 人気のない美術館の一角、大理石の床をモップがけしていた時、不意にそのつるりとした表面に波紋ができた。
 見間違いかとも思ったが、その波紋は消えることなく大理石の床を水の無い水面に変えた。
 呆気に取られた私の眼科で波紋は大理石の表面を揺らし、その奥に黒い影さえも生み出した。
 鯉のような形をした魚影はくるりくるりと大理石の床の中で泳ぎ回るように動き、やがてどこかへ行ってしまった。
 出会いはそれっきりだったが、その時の不思議な光景が頭から離れず、私は来る日も来る日もその大理石の床を綺麗にし続けた。
 それからニ年。私は清掃員のバイトをしていた事を生かして清掃会社に就職した。今はオープンしたばかりの博物館の清掃員として働いている。 
 大理石の床はまだ新しく、傷一つついていない。
 ただ一つ、時々つるりとした床の表面に波紋が立つのが玉に瑕だが。
その他
公開:20/10/27 20:58

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