ゆかり酒

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男は地方の営業中に『縁(ゆかり)』という小料理屋に入った。
品のよい女将が一人だった。
「いらっしゃいませ」
他愛のない会話に二人は和んだ。
女将が勧める地酒は「ゆかり酒」という辛口だ。じんわりと沁み込む深い味わいに男は唸る。
「ただいまー」
その声に男が振り返ると、セーラー服の女の子だった。
「おかえり」と女将。娘のようだ。
「あ、ゆかり酒。よかったね、お客さん」
「なにが?」
「このお酒、お気に入りのお客さんにしか出さないんだぁ」と含み笑い。
手を上げて娘を追いかける女将、逃げながら娘は奥の部屋に入っていった。

「ごちそうさま。領収書もらえる? それと君の、」
男は電話をかける仕草をした。

女将は男の胸に飛び込んでいった。
燃え上がる恋は、燃え尽きるのも速い。二人は別れた。

数年後。
男はとある居酒屋に入った。
「地酒、いかがですか」
と『ゆかり酒』を勧めた女将は、あの娘だった。
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公開:20/10/28 18:31
更新:20/11/13 18:27
地酒

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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