蠍の火の記憶

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僕は酷い人間だった。
実に無自覚で無遠慮な生き方をしてきた。
多くの命を糧にしたし、多くの人の生活を踏み付け贅の限りを尽くした。
僕の周りに何か見えるかい?
そう、何もないはずだ。
何も見えないんだ。
ここはあまりにも昏い。
どんな金品もここでは価値をもたない。もって行くことができるのは、たった一つだけだからね。
蠍の火の話を知っているだろうか。
孤独の中で蠍は願った。闇の中で皆の幸福を照らす炎になりたい、と。その命と引き換えにね。
君にこれをあげるよ。
これを何と呼べばいいのか僕にはわからない。ただ、僕が君に渡すことによって、これはきっと「蠍の火」になる。
「蠍の火」は毒でもある。きっと君はこれから苦しむ。でも僕は託すよ。僕自身もきっと、そうして受け継がれて来た筈だから。


眩しい光の中で目を開ける。

「手術は成功しましたよ」

左胸の奥で熱く脈打つものがある。
何故だか涙が溢れた。
SF
公開:20/10/28 12:14

エビハラ( 宮崎県 )

平成元年生まれ、最近はショートショートあまり書いていませんでした汗
ログインできてよかったぁ…

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