月、月、月

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「母さんあれ」
娘が指差す先には十三夜の月がぷっくりと浮かんでいる。よく見ると隣に細く光る三日月が。白く輝く月ふたつ、一体なぜ。
夜市の誰もが気づいて見上げる。老人が胸元のお守りをまさぐりながら呟いている。私たちの国はまだ若く、なにかあれば迷信深い老人はこんな仕草をする。
「よからぬことの前触れか」
「きっと光の加減でしょ」
誰にもわからないまま夜は更けた。
翌日も、翌々日も、十三夜の月は現れた。日に日にそれは増えていき、昼も夜もなく空のあちこちにぶくりぷくりと浮かんでいる。時には赤黒く変色するものもあり、あまりの不気味さに出歩く人もまばらになった。

久しぶりに買い出しに。空には赤黒い月たち。なるべく見ないようスカーフを深く巻く。
と、ぽんっと月が弾けてベトベトしたものがあちこちに降ってきた。甘ったるい腐ったこの匂い。
「…ニキビ?」
誰かが言った。
私たちの国はまだ若い。私たちの空も。
ファンタジー
公開:20/10/27 23:54

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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