雨を待つ

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傘を閉じ空を見上げている老婦人に小林はそっと近寄った。
「あの、傘が壊れてしまったんですか? 良かったらお使いになりますか」
ボランティア活動で公園の清掃の為に持っていた予備のカッパを差し出す。
「ああ、有り難う。でも大丈夫。傘は壊れていないから」
「じゃあ、何で」
「そうねえ、涙が出ないからかしらね」
老婦人はポンと傘をさして昔話よと微笑んだ。

「好きな人と結婚させて貰えなくてね」
親の決めた相手と結婚して、その夫も去年亡くなり彼女は独りになった。
「愛していたのよ、燃えるような愛情では無かったけれど」
雨が顔にかかり涙のように伝うのを、罰のように受け止めていた。
「夫が亡くなる前に、昔好きだった人が亡くなったって知り合いに聞いて。でも本当に昔話なのよ」
「男はナイーブですからね」
「こっそり泣いた事を怒ってるのかしら」
「返事ですかね」
雲間から出た光が雨に濡れた頬を照らした。
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公開:20/10/25 22:49

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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