目玉を売ったの。

10
4

「目玉を売ったの……目玉を売ったの……」
薄暗い路地裏。大男がこちらに背を向けて、ゆらゆらと横に揺れていた。
「目玉を売ったの……目玉を売ったの……」
ずっと同じ言葉を繰り返している。
僕の中で恐怖より、狂人に対する侮蔑的な気持ちが勝った。
「それ、取ったらどうですか? よく見えると思いますよ」
僕は大男の顔の周りに目隠しするように巻いてある、黒い帯のような物に手を伸ばした。嘘を嘘だと証明された時、どんな反応をするのだろう。
「目玉を売ったの……目玉を売ったの……」
その時ふと、本当に目玉がなかったらどうしようと不安になった。この街じゃ、身体の一部を商品として取引することなど珍しくない。
「目玉を売ったの」
背後から女の声が聞こえた。そうして、気が付いた。老若男女、様々な人間が僕を囲んでいた。全員、目隠しをしていた。
この街には山程存在するのだ。こういった、不可解な人の闇が。
ホラー
公開:20/10/25 21:40
更新:20/10/25 23:19

夜文学。( 夜の街。 )

朝が来なくなった街、「夜の街」。
そこで生きる、歪な彼等の日常。

Twitterでも「夜の街」の140字小説を書いてます、是非。→ @UhKmBUQ168TjY5a

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容