定点観測

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気象研究所の裏山で私は同僚の土屋くんと秋のキスをした。
シルバー人材センターから派遣された遠山さんが草刈機で草を刈ったばかりの裏山は、ケールみたいな青いにおいに覆われていて、昆虫気分のキスは苦めだった。
「じゃ」
「うん。また」
私たちは季節が変わるたびにここでキスをする。
気象条件や景色の違い、互いの生活や心境に変化があれば、交わすキスの意味も変わっていく。それが定点観測の面白み。
研究室が同部屋でもある土屋くんとそんな会話を交わしたのは去年の春だ。今日で6度目の、礼にはじまり礼におわる、軽い抱擁だけの静かなキス。
土屋くんが仕事に戻り、私が余韻の中でぼんやりしていると、遠山さんが私を見つめる視線に気がついた。ずっと見ていたのだろうか。
冬。私が裏山に向かうと、いつもの場所で遠山さんと土屋くんがキスをしていた。不測の事態だけど、こんなときこそ冷静に、私は土屋くんとキスをすべきだと思った。
公開:20/10/26 18:24

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