キオクフォーマット

ある国の偉い人たちの間で、突然変異のように脳が異常発達を始めていた。

キオクフォーマットという能力だ。

人は偉くなればなるほど、忘れてしまいたくなる記憶が増えるらしい。念ずれば通ず。特定の記憶を意図的に消し去ることのできる術が脳に備わった。

不正を疑われた偉い人たちが、公の場で厳しい質問にさらされる。彼らは無表情に繰り返す。

記憶にございません、と。

あれは噓ではない。だから、彼らを責めることはできないのだ。

しかし、キオクフォーマットには重大な欠陥があった。

その力を乱発させると暴走し、大切に取っておきたい記憶まで勝手に消滅させてしまう脳内バグ。

偉い人たちは、やがてありとあらゆる記憶を失ってゆく。

そして、参謀や懐刀たちに都合よく操られるようになってゆく。