潮時
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仕事に行き詰まった早朝だった。
散歩から帰ると大量の本を捨てている女性がいた。その本を何となしに見て「あ」と声が漏れる。振り向いた女性に「それ」と聞く。全部同じ作家の本である。
「わたし、この作家嫌いなんですよ」
そう言って気怠そうに帰っていく女性の背中を見送る。
僕が筆名を使って書いた本のデビューから最新作までの十七冊が、新聞紙の束や古雑誌に紛れている様はなんとも痛ましかった。
「で、潮時だと思ったんですか?」
話を聞いた編集者は、僕が作家を辞めたいと思っている事を知ってそう聞いた。
「いや、そうじゃないんだ」
話には続きがある。
翌日、女性が引っ越しのトラックを見送る場面に居合わせた。どうやら作家を目指していたが、自分の書きたい作品を先に書く作家(つまり僕)に勝てないと思い実家に帰るという。
「一番のファンじゃないですか」
「ああ。もう少し頑張ってみようかな」
潮は再び満ち始めていた。
散歩から帰ると大量の本を捨てている女性がいた。その本を何となしに見て「あ」と声が漏れる。振り向いた女性に「それ」と聞く。全部同じ作家の本である。
「わたし、この作家嫌いなんですよ」
そう言って気怠そうに帰っていく女性の背中を見送る。
僕が筆名を使って書いた本のデビューから最新作までの十七冊が、新聞紙の束や古雑誌に紛れている様はなんとも痛ましかった。
「で、潮時だと思ったんですか?」
話を聞いた編集者は、僕が作家を辞めたいと思っている事を知ってそう聞いた。
「いや、そうじゃないんだ」
話には続きがある。
翌日、女性が引っ越しのトラックを見送る場面に居合わせた。どうやら作家を目指していたが、自分の書きたい作品を先に書く作家(つまり僕)に勝てないと思い実家に帰るという。
「一番のファンじゃないですか」
「ああ。もう少し頑張ってみようかな」
潮は再び満ち始めていた。
その他
公開:20/10/23 13:48
更新:20/10/23 20:28
更新:20/10/23 20:28
ショートショートには不向きな書き方かもしれませんが、こちらで修行させていただきたくお邪魔しました。
よろしくお願いします。
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