ゆかり飴

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僕は『猫の妖菓子店』に立ち寄った。
「お爺さまのプレゼントですね」
猫耳を付けた店主は何も知らないのにそう言った。
「僕の心が見えるの?」
「はい。猫ですから」
店主は棚から飴玉の入った小さなガラス瓶を差し出した。
「ゆかり飴です。きっと喜ばれますよ」

私は孫のケンから、誕生日祝いに飴玉をもらった。
『ゆかり飴』と書いてある。さて、どんな味だろう……。
不思議な飴玉だった。
一つ味わうたびに、瞼が重くなって、その裏に懐かしい人の面影が走馬灯のように流れてゆく。この飴はゆかりある人物を想起させてくれるのか……。

妻の葬儀の日、私は孫のケンと並んで遺影を見ていた。
「ケン、飴玉食べるか」
「うん。あ、ゆかり飴」
最後の二つを二人で食べて、泣いた。
ゆかり飴は私に生きる糧を教えてくれた。
飴玉はなくとも、私の心の底には、妻が残してくれた飴玉がいつもある。
それを味わいながら妻と生きていける。
その他
公開:20/10/23 12:59
更新:20/10/23 13:13
飴玉 猫の妖菓子店

豊丸晃生( 大阪 )

ショートショートの神様、星 新一を崇拝しています。お笑い好きで怪談も好き。
お笑いネタのような作品が多いですね(笑)
【受賞作品】
「渋谷シティ」
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞受賞。
「我が家の食卓」
ベルモニーショートショートコンテスト入賞。
「電車家族」
隕石家族ショートショートコンテスト入賞。
「大男の力自慢大会」
「スカイフィッシング」
空想競技2020ショートショートコンテストW入賞。

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