縁日と御守

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窓の外を眺めていると、霧がかかってきて気がつけば故郷の縁日に来ていた。
裸電球で照らされた屋台が数多く並んでいる。人混みを歩いていると、体が透き通った人たちの集団に出くわした。
すると、集団の中の一人がこちらへ走ってきた。入院していた友人だ。
「知らない人ばかりだったので、縁日に来ていた君にもう一度会えて良かった」
友人は嬉しそうに言った。
学生時代から友人は入退院を繰り返していた。俺は御守を持ってお見舞いに行ったことがあった。
「ここで君に会えたので、もらった御守を返すよ。もう必要ないんだ」
友人は意味ありげな笑みを浮かべて言った。
「元気になったんだね。安心した」
俺は喜んで言ったが、友人は霧の中から差し込む光を指さしながら、
「もう時間だ。今からあちらに向かわないといけないんだ」
友人が光の中に包まれて窓の外へと消え去った。
俺の上着のポケットの中には、友人から返された御守があった。
青春
公開:20/10/23 10:25
コンテスト

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