いやし中華

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『いやし中華始めました』
 いやし中華? 冷やし中華の間違いか? しかもこんな季節に?
「すみません、いやし中華って冷やし中華のことですか?」
「当店では麺類は取り扱っておりません」
 可愛らしいお姉さんが笑顔で言う。
「じゃあ、何なんでしょう」
「よく見ずに入ってこられたのですね」
 お姉さんは慣れた手つきで僕に目隠しをした。
「今お持ちしますね」
 お姉さんは魅惑的な香りと共に戻ってきた。
「触って」
 僕はドキドキしながら手を伸ばしてそれを確かめる。両手に握ったそれは柔らかくて温かくて……。こ、これは。
「そっとよ。ドキドキしちゃうね」と、甘い声。
「はい、あーん……」
 口の中に柔らかい何かが入ってくる。ああ、この味、なんてジューシー。
 帰り際、店の外の看板を見ると『いやし中華』の後に小さく『まん』と書かれていた。
 お姉さんは中華まんをたらふく食わせてくれた。最高の癒しだった。
その他
公開:20/10/24 09:36
更新:20/10/24 12:35

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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