乾くタクシー

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「最悪」言葉を吐き捨てた。
会社は順調だったが共同経営者にまんまと追い落とされた。おまけに5年付き合った男の浮気。ヒロミは男に買い与えた部屋を傘も持たずに飛び出していた。

「ほんと最悪…」頬を伝う滴は雨か涙かもう分からない。 33歳、厄年のせいなのか。今度お祓いしてもらおう、なんて考えていると道端のタクシーが目に留まった。

太陽の行灯がついたオレンジ色のタクシー。ヒロミは吸い寄せられるように乗りこんだ。「どちらまで」しゃがれた声で運転手は問う。駅までお願いすると何も答えずに発車した。

外の大雨とは打って変わって室内はカラッとしている。気づくとずぶ濡れの服がすっかり乾いている。髪もドライヤーを当てたように艶やかだ。不思議に思って尋ねるが彼は素っ気ない。

そうこうするうち駅前で扉が開いた。気持ちが軽くなっていることに気づいたヒロミは駅とは反対の、雲間からこぼれる太陽の方向に歩き始めた。
ファンタジー
公開:20/10/23 22:40

くろ( 五次元世界 )

普段はインスタに54字の物語を投稿しています。(@kur0to)

「短くて不思議」

この制約のない世界一短い小説上で、あらん限りの空想をほとばしらせたいと思います。

よろしくお願いします!

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