予言谷

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 予言谷に現れる霧には未来を映し出す力がある。
 T青年は、観光客ひしめく谷の底で身を震わせ待っている。すると、辺りが白く濁ってきた。
「これはもしかして!」
 朧げに女性の輪郭が現れた。しかし、はっきりと視認する前に消失。
 それからというもの、T青年の頭は彼女の事でいっぱいだった。
「まさか、クリスマスまでに恋人が!?」
 数日後、またも谷を訪れたT青年。その前に、短いスカートと赤い服に身を包んだ女性が現れる。
「あと少しで顔が見える!」
 しかし、観光客に押されて転んでいる間に消えてしまった。
「ちくしょう!」
 T青年は決意した。絶対に顔を見てやると。テレビ・ラジオ・SNS等をフル活用。最も寒暖差の激しい、雨の日の翌日に、谷へ踏み込んだ。
「今度こそ!」
 霧の中に浮かび上がる、スラリとした足。深紅のスカート。サンタを模した服。そして最後に見えたのは――化粧をした自分の顔であった。
ファンタジー
公開:20/10/23 21:26

ゆぅる( 東京 )

お立ち寄りありがとうございます。ショートショート初心者です。
拙いなりに文章の面白さを追求していきたいと思って日々研究しています。
よろしくお願いします!

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