アリとキリギリスでアリギリス

昆虫サイバネティックスの大家、虫津走（むしづ　はしる）教授は大講堂の演壇で、立ち見席の出る聴衆を前に講演していた。
「アリは働き過ぎである。しかしキリギリスは遊び過ぎである」
「そこで私はアリとキリギリスの長所を合成したアリギリスを作るに至った」
聴衆から響めきと賛嘆の声が上がった。

「ではアリギリスをご覧に入れよう」
真っ赤なカーテンが開かれると、人間ほどもあるアリギリスが鉄格子の中に数え切れないほど入っていた。
「ゆけ、アリギリスよ！」
会場は騒然とし、女性たちの悲鳴がこだましたが、アリギリス達の『ギィギィイイイーーッ』という鳴き声によりかき消された。
頭がアリのアリギリスは口から大量のギ酸を吐き、逃げ惑う聴衆に浴びせかけた。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

虫津教授は頭がアリ、羽と足がキリギリス、胴体と腕が人間の異形の姿となり「わはははは」と大声で笑いながらどこかへと飛び去って行った。