カニカマ

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裏路地、看板のない店だった。僕はクロノス氏の後について、胸を高鳴らせながらその漆黒の扉をくぐった。
クロノス氏は僕のグルメブログによくコメントを残してくれていて、つい先日オフ会で初めて顔を合わせた。上品な装いのロマンスグレーの紳士で、穏やかな人物だ。これで高級フレンチからB級グルメ、果てはゲテモノまで食すというのだから人は見た目によらない。

「カニカマ、でございます」

ギャルソンが恭しい動きで置いた皿には、見慣れたものが鎮座している。
なるほど、カニカマだ。
フォークで小さく切って口に運ぶ。プリッとした歯応え、滑らかな舌触り。確かに美味い。美味いが…

チラッと氏の顔を見る。グルメ通が紹介するような代物に思えなかったからだ。

「…カニバリズム、という言葉をご存知ですか?」

氏はそう言って微笑んだ。
自分が食べた物の正体を知った僕は、胃の底から酸っぱいものが込み上げてくるのを感じた。
ホラー
公開:20/10/22 08:49

エビハラ( 宮崎県 )

平成元年生まれ、最近はショートショートあまり書いていませんでした汗
ログインできてよかったぁ…

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