2
3

打ち捨てられた自転車は物悲しい。見過ごせなくて持ち帰った。錆だらけの車体はまだしっかりして、フレームに歪みはなくブレーキ周りも大丈夫だ。傷んだパーツを交換すれば問題ない。車体に残るロゴは驚いたことに三十年くらい前のものだ。もうこのタイプの自転車を作る技術は残っていない。錆を落とす手に熱がこもった。
翌朝試しに乗ってみた。気がつくと東へ走っている。やはりそうか、こいつは帰巣本能があるのだ。
翌日準備をし走り出した。漕いでいるのか、漕がされているのか分からない状態でひたすら進んだ。

三日頑張ったが限界だった。お前はずいぶん遠くから来たのだな。困っていると事情を聞いた宿の息子が代わりに乗ると言い出した。連絡先を交換してお願いした。

四人目の乗り手は動画を送ってきた。
『この子もう自分だけで行けそうです』
動画の中で自転車はよろよろと、やがてスピードを上げて走り出した。東へ。朝日の昇る明日へ。
ファンタジー
公開:20/10/22 23:21

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容