桜色の雨

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 装置のスイッチを押すと、みるみる空に雨雲が広がった。
「いい。やはり、雨はS山の天然水に限る」
 博士は地上で誰よりも雨を愛している。その愛の結晶が、博士最大の発明品、降雨発生器である。
 投入口に注いだ液体と、同じ成分の雨を降らせる装置。この装置のお陰で、人類の歴史から干ばつの文字は消えた。
「何だ? この音と地響きは?」
 突如として鳴り響く警報。テレビを見た博士は、机に伏っぷし頭を叩きつけた。机の上に置かれていた薬瓶が落ち、割れる音が響く。しかし、今はそれどころではなかった。
「記録的な大豪雨によりBダムが決壊。行方不明者は100人を超え……」
 博士は頭痛に耐えてなんとか立ち上がった。降雨量を調整しようと装置に駆け寄る。
「なんてことだ」
 機械の周りに砕けた瓶の破片が散らばっていた。投入口にはピンク色の水滴。全ては手遅れだった。
 窓の外の世界は、死の桜色に染まっていた。
SF
公開:20/10/22 20:40
更新:20/10/22 22:22

ゆぅる( 東京 )

お立ち寄りありがとうございます。ショートショート初心者です。
拙いなりに文章の面白さを追求していきたいと思って日々研究しています。
よろしくお願いします!

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