魔物

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 ぼくの村は豊かな森のすぐ近くにある。春は山桜が咲き、夏は木々の葉が図々しい程に勢力を増す。秋は美味しいキノコが採れるし、冬は木の枝一つひとつに雪を乗せ、ひっそりと眠りに就く。ぼくはそんな森が大好きだけど、これはぼくだけの森じゃない。鹿や狸、小鳥や小さい虫たちにとっても大切な住処だ。そして、あの魔物にとっても。
 魔物が出たという知らせが村のあちこちで聞こえるようになって以来、みんなピリピリしているようだった。毛むくじゃらで、鋭い牙と爪を持つその魔物は、冬の間は洞穴で眠っているらしい。だから秋には荒食いをするのだと大人たちが言っていた。人も動物も魔物も、みんな生きていかなきゃならない。誰かが誰かの餌にならなきゃいけない。そんなふうにして、この世界は出来ている。
 今朝、一頭の魔物が銃殺された。脅威がひとつ減り、森のいのちもひとつ減った。それが悲しいと思えるうちは、僕も人でいられるだろうか。
その他
公開:20/10/22 16:08

如月十

きさらぎ とお です。
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