はらいせの森
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「さらばだ」
いつも彼は別れ際にそう言った。まるで今生の別れのように。
外国へ行くらしい。新しい女がいるらしい。名は偽りらしい。子がいるらしい。
いろんな風が彼の噂を運んだ。私は耳の窓を懸命に閉じていた。
私も彼のクチャ喰いにはうんざりしていた。先は無いとも思っていた。それでも腹は立つ。私はしばらく仕事を休んだ。北海道の森の中にテントを張ってクマが出没するのを待った。闘いたいと願った。
四日目の朝。こどもの泣く声が聞こえて、私はテントの中から声をかけた。
「どうしたの」
こどもは意外にしっかりとした声で「お母さんが」と言う。
「お母さんがどうしたの」
「本当のお母さんじゃないの」
「その制度は終わったよ」
「制度って?」
「本当のお母さんが子を育てるって制度」
「誰が決めたの」
「上の人」
「いつ」
「先週」
外に出ると巨大なヒグマが真っ青な空に泣いていた。
それでも私の気はおさまらない。
いつも彼は別れ際にそう言った。まるで今生の別れのように。
外国へ行くらしい。新しい女がいるらしい。名は偽りらしい。子がいるらしい。
いろんな風が彼の噂を運んだ。私は耳の窓を懸命に閉じていた。
私も彼のクチャ喰いにはうんざりしていた。先は無いとも思っていた。それでも腹は立つ。私はしばらく仕事を休んだ。北海道の森の中にテントを張ってクマが出没するのを待った。闘いたいと願った。
四日目の朝。こどもの泣く声が聞こえて、私はテントの中から声をかけた。
「どうしたの」
こどもは意外にしっかりとした声で「お母さんが」と言う。
「お母さんがどうしたの」
「本当のお母さんじゃないの」
「その制度は終わったよ」
「制度って?」
「本当のお母さんが子を育てるって制度」
「誰が決めたの」
「上の人」
「いつ」
「先週」
外に出ると巨大なヒグマが真っ青な空に泣いていた。
それでも私の気はおさまらない。
公開:20/10/22 11:03
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