野性的なスルー

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身元不明の僧侶にたてがみ。
報道によると、その僧侶の背中には立派なたてがみがあったという。托鉢の最中に倒れて病院に搬送されたが意識はなく身元も不明。恋人を名乗る女が現れたが、僧侶の名や宗派は知らなかった。僧侶はすこぶる面白い人で、関わる者を根こそぎ笑顔で包んだという。
私はそれを聞いて行方不明の父だと確信した。髪も髭も薄いのに豊かなたてがみをもつ父。私は母と病院に向かった。
各地を放浪しながら金が尽きると母を頼った父。話は滅法面白くて、「人と思うと憎いけどヒモと思えば最上級のヒモよ」と母は評した。
この国の大人たちは成人すると美しいたてがみを剃り落としてしまう。それで社会への協調を誓うのだ。
病床の父に再会した夜、今度は母が姿を消した。手術のために剃毛された父を許せなかったのだろう。
数年後、身元不明の尼僧にしっぽ、という報道があった。私のたてがみがスルーしろよと揺れたから、まあそうした。
公開:20/10/20 14:16

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