虹の射手

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雨がやみ日が差すような午後は、大弓を担いで丘を登る。
丘の上からでも、東にある大きな灰色の壁の向こうは見えない。
この国が東西に分かれて断絶の壁が出来てから、数十年がたった。壁の前には西軍の兵が銃を持って立っている。交流は許されない。虹の射手を除いては。

弓を大木に立てかけ、矢の準備をする。
矢の材料は大量の手紙だ。生き別れた家族や恋人、友人へ送る短いセンテンス。その一通一通を特殊な製法で寄り上げ、一本の矢を作る。

かつて西軍は射手にスパイ容疑をかけた。送りたい相手に送りたい言葉を届ける技術にはそれが可能だからだ。しかし刑は執行されなかった。永遠の猶予が与えられたのは、軍人もまた人間だったからだろう。

強く引き絞り、矢を放つ。
虹は七色の尾を引き、大きな弧を描いて壁を越えてゆく。
「子供が生まれたよ」
「また会おう」
「愛しています」

東西問わず、この国の人間は虹の空を見上げる。
ファンタジー
公開:20/10/20 10:35

エビハラ( 宮崎県 )

平成元年生まれ、最近はショートショートあまり書いていませんでした汗
ログインできてよかったぁ…

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