バナナの皮との会話

8
8

 昼前の見回りの途中、ガラガラの駐車場の中心にバナナの皮が座っていた。
 両膝をゆるく曲げた体育座りで、体の少し後ろへ両手をついて、ぼんやりと遠くの空を眺めていた。
 駐車中、車内でバナナを食べてそのまま投げ捨てたのだろう。四つに剥かれた皮がアスファルト上へ伏せるように着地した結果、バナナの尻だった部分が、まるで頭のようにみえる姿勢になったのだ。
 秋晴れの昼、そのように座って空を眺めるのは格別だろう、と思った。そして、バナナの皮はいま、何を思うのだろうかと思った。
「べつにどうということはないね」とバナナの皮の声が聞こえた。守るべき実を失った今、バナナの皮は、初めて自分自身として世界を眺めているのだろうか?
「あんたの皮膚は、そう思うのかい?」
 どうだろう。僕と皮膚とが分離する状況は想像がつかなかった。
「あんた、俺を捨てるね?」
 僕はうなずいてバナナの皮の頭をつまんで、ぶらさげた。
ファンタジー
公開:20/10/21 12:11

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容