ソンブレロ・デ・チャロの男

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 彼はソンブレロ・デ・チャロを二重に被っていた。新撰組の法被と木刀を渡すと、彼はすぐに身に着けて「ヨーヤクアエタァーネ」と笑った。それからソンブレロ・デ・チャロのひとつを私に被せた。編み目から差し込む空港の明かりが涙で滲んだ。
「マリーア。ソンブレロ・デ・チャロ、ナカナイネェ。ワラウタメ、アルヨォ。マリーア」
 私はマリアではないけれど、名前など些細なことだと思った。私と彼と、二人のソンブレロ・デ・チャロは、オフラインで幾度も重なり交わった。こうして一緒にいられれば、言葉も名前もいらなかった。ビザとかピザとかよく分からなかった。ニュウカンだなんて、ちょっと卑猥な言葉だな、くらいにしか感じなかった。公安?
 ソンブレロ・デ・チャロ。彼は消えた。
 わたしは彼の名を知らず、わたしがあげた木刀がどれほどの人を殺めたのかも、知らない。
 今も私のベッドの上には、ソンブレロ・デ・チャロが聳えている。
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公開:20/10/21 11:43
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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