ゆかりドラフト

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「たしかに生まれたよ。でも、香らないんだよな」

詩人は苦しげに呟いた。いや正確に言えば、我々の質問にイタコが答えた。

夭折した天才…。今年のドラフト会議で、わが街はその詩人を指名した。ほかの土地や物との競合はなく、すんなりと交渉権を手中に。しかし詩人はゆかりの公認に難色を示した。冒頭はその理由である。

予想外だった。政令指定都市でもあるし、文化事業に割く予算だってある。その我々からのオファーを無下にしようとは。

しかも詩人はまだ無名なのだ。ブレイク寸前のシンガーソングライターが、じつは詩人の作品を愛読しているとの情報をキャッチした上での、いわば青田買いだった。

「もっと辺鄙な片田舎がいいなあ。その方がロマ、ンが、あ…」

イタコの息づかいが荒くなり、しまいにはのけぞって絶叫し始めた。「うあー、ろうにんー、ろうにーん!」

くそっ。この8位指名を蹴ったら、もう来年はあると思うな。
ファンタジー
公開:20/10/20 23:18

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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