10えんになります

12
8

「10えんになります」
 店員の言葉に、俺はいやに安いな、と思った。
 一週間分の食料品などでスーパーのかごはいっぱいである。
 内心で首をひねりながら、俺は10円玉を出した。
 だが、店員はそれには見向きもしない。こちらの顔を見つめながら、
「お客さん、全然足りませんね」
「どういうことだ、10円って言ったじゃないか」
「10円じゃなくて、10縁ですよ。ずいぶん寂しい人生を送ってらっしゃるようで」
 たしかに、俺はニートで親に買ってもらったマンションに住み、月々親にもらったお金で生活している。妻はもちろん、友人と呼べる人間は一人もいない。
 店員は憐れむように、
「ニュースを見ませんでしたか? 昨日から、円が縁に代わったんです。人と人との繋がりこそ財産だという考え方でね。いまのあなたの全財産は両親からの2縁。頑張って人付き合いをして縁を増やさないと、これからは生きていけませんよ」
SF
公開:20/10/19 12:52

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容