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「物事が思うように運ばへんときに一番気いつけなあかんことってなんやと思う」
相当に酔っていた先輩はあるときそんなことを言い出した。
「それはやな、物事が思うように運んどらへんって頭で考えてしもて、足が動かへんようになってまうことや。隙間があるからあかんねん。頭やなくて手と足動かしてな、胸ん中の穴ぼこ全部埋め尽くすんや」
僕はその御高説にまずまず感心したものだ。ところがいま、先輩は足を震わせ、ぶつぶつと薄暗い言葉を並べては弱々しい目で何度も店内をチラ見している。
「あかん。やっぱかえろ」
「ここまで来て、いまさら何を言うとんですか」
「せやかて、わし、無理やて。あんな別嬪さんや思わんし」
「プロポーズでもなし。ビビりすぎですて。胸ん中、穴ぼこだらけですやん」
「なんやて?」
マッチングアプリで意気投合した女性と初めて会うらしい。いまから。
「早よ行きなはれ」
僕はとん、と縮んだ背中を押した。
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公開:20/10/19 07:00
更新:20/10/19 02:24

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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