昼下がり、独りで。

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ふう、と溜息を吐き、コーヒーの入ったカップをソーサーに置く。テーブルの反対側にも同じ柄のものがあるけれど、きっともう使わないだろう。彼と別れた今日で、あのカップの役目も終わり。ただの、思い出の品になる。
このカップは、私と彼が交際して一月の記念に買ったものだった。年老いても、このカップを使って一緒にお茶を飲みたいね、なんて夢の様なことを言っていたのが、今でも鮮明に思い出される。
あれから二年。奇しくもこのカップを買ったのと同じ日に、彼から別れ話を切り出された。理由の見当はついていた。彼に、別の想い人がいるって。
事前に予想していたのもあって、彼からその話を聞かされても、怒りも悲しみもも湧いてこなかった。むしろ、彼のことを応援したい気持ちだった。私はもう、彼からたくさんの思い出をもらった。これ以上望むのは、わがままだと思った。だから、笑顔でこう言うのだ——
——ありがとう、って。
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公開:20/10/19 20:06

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