バイトリーダー高橋くん

新人は驚いた。そして皆同じことを言う。
たったそれだけですか？
そう、この箱をこっちからあっちまで運ぶ、たったそれだけだ。高橋は言った。

新人は箱を持ち上げた。大きくもなく小さくもない。重くもなく軽くもない。何とも言えない箱だった。あっちまで約10歩。１歩２歩３歩、なんだ楽勝じゃないか。しかし残り１歩のところで突然手を滑らせた。ヌルッとしたのだ。おかしいな、新人は箱を持ち上げようとするがヌルッとして持てない。1歩下がると持ち上がるが、1歩進むとヌルッとする。新人は何度も挑戦したがヌルッとして持てず、やってられるか！と怒って帰ってしまった。

別室でヌルッとしていた社長が、今回のヌルッとはどうかねと尋ねた。なかなか良いヌルッとです、高橋が答える。社長は満足気にヌルッとした。
ところで君！正社員になる気はないかね。
いえ私はバイトリーダーで充分です。
今日も高橋はヌルッとかわすのだ。