しゃぶって。

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路地裏から誰かの素足が飛び出していた。爪先が上を向いているから、きっと誰かが仰向けに寝ているんだ。星でも眺めたくなったんだろう。
その足の指を老婆がしゃぶっていた。決して何の比喩でもない。ちゅぱちゅぱと不快な音を立てて、美味しそうに、夜空を見上げた誰かの指を堪能していた。
僕は気になって、恐る恐るその路地裏を覗いてみた。
上向きに寝転がっているスーツを着た40代ぐらいの男の腹に、白髪でボンデージ姿の老婆が跨がっていた。
「助けてぇ……助けてよぉ……」
男が彼女の股の下で苦しそうに顔を歪ませ、呻く。それでも老婆は無心で彼の指を吸って、舐めて、噛んで、しゃぶり続けていた。
助けようと思ったが、相手は老人だ。殴るなり、蹴るなり、押し倒すなり、自分で何とか出来ないものかと不審に感じて、身体が動かなかった。
「助けてよぉ……気持ちいいよぉ……」
今日も変わらず、この街の夜は壊れている。
ホラー
公開:20/10/17 21:17
更新:20/10/18 17:56

夜文学。( 夜の街。 )

朝が来なくなった街、「夜の街」。
そこで生きる、歪な彼等の日常。

Twitterでも「夜の街」の140字小説を書いてます、是非。→ @UhKmBUQ168TjY5a

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