涼虫

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久しぶりに学生時代の友人に会ったときのことだ。
「秋はスズムシの季節だよねえ」
電機メーカーの研究所に勤める友人がしみじみと言った。
「そうだね。夜になると鈴虫の美しい鳴き声が聞こえるよ」
「いま言ったのは、その鈴虫のことじゃないんだよ」
俺が怪訝そうな顔をしていると友人は続けた。
「最近、新種の秋の虫が発見されて、涼しい虫だから『涼虫』というんだよ。
見た目は鈴虫に似ているんだけれど、白くて少し透き通って見えるんだ。羽を擦って鈴虫みたいに涼やかな音色は奏でない代わりに、涼しい冷気を発するんだ。それで涼虫と呼ばれているんだよ」
「すごいね! ぜひ見てみたいなあ」
「申し訳ないけれど企業秘密で見せられないんだ。
実は、バイオテクノロジーを駆使して夏に涼虫が大量発生するよう我が研究所で鋭意開発中なんだよ。冷房に使えると思ってね。来年の夏に虫かご型の『涼虫クーラー』と銘打って販売する予定なんだ」
SF
公開:20/10/17 19:28
スズムシ 鈴虫 音色 冷気 バイオテクノロジー 冷房 虫かご クーラー

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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