ポケットに手を突っ込んで

「ポケットに手なんて入れちゃダメでしょ！」

子どもの頃、誰だって一度や二度はそうやって大人に注意されたことがあるはずだ。

ポケットに手を突っ込んで、猫背になって、斜に構えてみる。

ちょっと不良っぽくなった気分がして、ちょっと大人びた気分もして、怒られてるのに、子どもながらにちっぽけな優越感に満たされる。

制服を着させられている間は、ずっとそうだった。

ポケットに手を突っ込むイコール、ささやかな自己主張。

でも、いまはもう、そんな時代じゃないのかも。

電車内でも歩きながらでも、片方の手にスマホ、もう片方の手でスワイプ。ずっとスマホとにらめっこ。

ポケットに手を突っ込む暇も余裕も、ないみたい。

スマホの中の世界でしか、自己主張できない時代になってしまったのだろうか。