母

母が死んだ。
母を愛していた兄は心を痛め、塞ぎ込んでしまう。
このままではいけない…私は兄の為、母になる事を決意した。母の縁の品を身に着け、母のように振舞う。
最初は違和感があった。しかし私は母の娘。仕草や声、覚えている限りを再現していると次第に兄も私を母と認識するようになった。
兄は私を母と呼び、愛してくれた。代わりに兄の中から私がいなくなった…
私は兄に聞いた。妹は？と。
「ああ、妹の事は残念だ…１年前に死んでしまうなんて…」
兄の中で私は母の代わりに死んだ事になっていた。
私は母の縁の品を全て外す。兄に私が妹だと真実を告げた。
真実を知った兄は私を糾弾・罵倒し殺害した。そして私が外した母の縁の品を身に着け始める。
「最初からこうしておけば良かったんだ…俺が母さんになればずっと母さんと一緒にいられる…」
兄は歪んだ笑みを浮かべた。
その姿は１０年前、母を亡くした父の姿と全く同じだった。