季節の変わり目

蝉の合唱が終わり、肌寒くなってきた頃。
今日は、冷たい雨が降っていた。
「今日で、お別れですね」
「そうですね」
恋人だったとは思えない敬語での会話。

横には木製のベンチ。
彼女との出会いは、五年前の夏だ。
ボトル缶のコーヒーを持った女性が、隣に座っていた。
蓋をなかなか開けれず困っていた。
「蓋、開けようか？」
この日をきっかけに、女性と仲を深め、恋人へと変わっていった。

年月が経つに連れ、喧嘩する日が増えていき、お互いのために…と話し合いの結果、別れることになったのだ。

ベンチは雨で濡れていて座れそうにない。
これからは二人で座ることも、彼女のために蓋を開けることも、もうないだろう。
「ばいばい、秋斗」
最後は敬語ではなく、優しい口調で別れを告げ、彼女は去っていった。

恋人から他人へと変わった。

傘から雨粒が何粒も落ちていく。
今日は雨でよかった。
涙を、傘と雨で隠せるから。