縁があったら、また

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その男と現場で会うのは三度目だった。スコップの柄の青と腰のキーホルダーに見覚えがある。男の方も僕に気づいたようだ。決めた。今度こそ話かけてみようと。

「そのキーホルダー、娘さんのですか?うちの娘も同じのを」
「ああ、ファンクラブに入ってたんですね」
安っぽいプラスチックにアイドルグループのロゴ。
「それ、触らせてもらえませんか?」
傷だらけの表面をそっと指でなぞる。鈴はひしゃげて音もない。
『もうお父さん、触んないでよ』娘の声が。
涙を振り払うように男に尋ねた。
「娘さんはおいくつだったんですか?」
「高二でした」
「うちは中一で」
男に返すと大事そうに両手で受け取り、また腰に下げた。

溜まった泥を掻き出す作業には終わりがある。だが僕らの苦しみはいつ尽きるのだろうか。

別れ際に「縁があったら」と言いかけて苦笑した。男は首を振った。できればこの先顔を合わすことのないように。そう祈った。
その他
公開:20/10/15 20:52

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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